吉田篤弘『78』(小学館文庫/文庫)

78回転で回るSP盤。その存在を中心に、SPレコード専門店で行われる穏やかなやりとりや、そこに通う男性2人の少年時代、さらにはSP盤を吹き込んだ往年のバンドメンバーが手にする生活までが展開される。数々の短いお話が緩やかに関係しあう、オムニバス形式の長編小説。

吉田篤弘さんは消えて行ってしまうものを小説に閉じ込めるのがうまいなー。それは記憶だったり気持ちだったりするんだと思うのだけど、今回はレコードというけっこう直接的なアイコンにその想いを託してる。SPレコードの、無骨だけど愛すべき懐かしい存在とあいまって、それぞれのストーリーが響き合う、とても温かみのある構成になっています。

なーんてなー、野暮な分析をするのがもったいない、肌触りのよい小説。あくまでやさしい文章は相変わらずです。風見鶏みたいだよね、吉田さんの文章って。ギスギスしようがない表現だ。起きたままを受け入れよう、と思える懐の深いお話でした。

78 (小学館文庫)

78 (小学館文庫)

2009/01/25読了(48冊目)