姜信子『日韓音楽ノート―「越境」する旅人の歌を追って』(岩波新書/新書)

在日韓国人三世の著者が自らのアイデンティティを模索するかのように、日韓の音楽の歴史を旅した記録。

韓国のポンチャック(別称:トロット)のメロディが日本の演歌にそっくりなのはなんでだろ?でもメロディは似てるのに、ポンチャックは四つ打ち。同じようなバックボーンを持っていたにしろ、音楽としての楽しみ方が違いすぎる!なぞだー、なんて軽い疑問を解消するために読んでみた。重かった。

時代は日本の植民地政策時代に遡る。韓国におけるイデオロギー形成のために唱歌が用いられ、舞台演劇といった文化が半ば強引に輸入され、「ヨナ抜き音階」の曲が市民に浸透していった。そんな地盤の上に、韓国は高度経済成長期を迎える。ポンチャックはそんな時代に普及した。モータリゼーションの加速と共に経済成長を鼓舞する音楽として、タクシーやトラックの運転手といった労働者たちから愛されたわけだ。

ココからはびっくりしたこと。80年代、韓国ではポンチャック論争が起こったらしい。植民地時代に一方的に植えつけられた民族観に基づいた音楽を後生大事に歌っているなんて、我々の伝統に泥を塗るような行為だ。そんな意見が渦巻いていたらしい。いやー、興味深い。韓国の民族観ってからっぽの大きな空洞を孕んでるものだったんだ。しかも、自らのアイデンティティを文化に求めてるのが、妙に新鮮だった。日本人は文化も国も殺しちゃったもんなあ。そもそも、日本が韓国に押し付けた唱歌だって、元は日本が欧米から輸入したもの。からっぽの国が、自らの植民地を作ろうとしてたって点も、なんだか可笑しい話ですね。

社会の作り方に、歌の力。考えるさせられることがいっぱい。ぼくはお隣の国のことを知らなすぎるな。このほかにも韓国ロックの出生ストーリーなど読み応えありました。文章もいい。韓国の文化的な空洞と、著者が抱えているアイデンティティの喪失感がなんだか似てる。小説みたいな味わいもあるし、資料的な価値もあるし、お腹一杯になりました。

日韓音楽ノート―「越境」する旅人の歌を追って (岩波新書)

日韓音楽ノート―「越境」する旅人の歌を追って (岩波新書)

2009/04/26読了(69冊目)