絲山秋子『豚キムチにジンクスはあるのか―絲的炊事記』(マガジンハウス/単行本)

群馬県高崎市に住む一人暮らしで酒飲みの芥川賞作家が雑誌『Hanako』に連載していた、自炊生活試行錯誤エッセイ。

美味しそう。読んでると、なによりお腹が減ってくる。高山なおみの『日々ごはん』みたいな軽やかさがあって気持ちよく読めた。特に表題の回は笑いました。欝だというのに、豚キムチを語るテンションの高さは尋常じゃない。ぜひ一度、一緒に飲みに行きたい。

どの料理もシンプルで、味がしっかりしてそうでいい。料理には性格が出るって、本当にそうなのかもしれませんね。産直野菜の描写ものびのびしてて、新鮮な食材に触れるのって大事なのねーと思いました。

群馬県はぼくにとっても出身地というのもあって、そこかしこに出てくる地元ネタがうれしかったです。そうだよなあ、新鮮な食材があって、それらをしっかりと採り入れて、楽しく生活できれば十分なんだよな。

豚キムチにジンクスはあるのか―絲的炊事記

豚キムチにジンクスはあるのか―絲的炊事記

2009/04/06読了(63冊目)

中島義道『カントの人間学』(講談社現代新書/新書)

カントの人となりに迫りながら、彼の哲学を紐解いていくカント哲学の入門書。

読みやすかった!エゴイズムや虚栄心といった今ぼくがまさに気になる分野の先達であるカントですが、いかんせん難しくって。これなら楽しみながら読める。

本書はカントの著作を追うのではなく、カント自身を追っている。カントがどう生きて、どんな環境で何を考え、哲学していたのか。けっして善良な市民ではないけれど、妙な魅力のある男としてカントが描かれていて読んでいて親近感が持てました。カント哲学の骨子にもさらっと触れられるし、まずはじめの1冊としては重宝しました。

カントの人間学 (講談社現代新書)

カントの人間学 (講談社現代新書)

2009/04/06読了(62冊目)

中島義道『カントの読み方』(ちくま新書/新書)

カントのちょう難解な著作である『純粋理性批判』を読み解く工夫がぎっしり詰まった解説書。

読みきれず!原書に当たることになったら、また手に取りたいです。

哲学書はとかく文章が小難しい。『統覚』に『超越・覚知』、『予料』って言われても、はて何のことやらと思ってしまう。この悪癖は元をたどれば、カントなどが輸入された当時の社会背景に起因すると中島義道は書いています。「幕末前の日本にはない概念だったから、言葉を新たに作り出した」、「大学で研究をするインテリゲンチャーのためだけに作られたテキストだったから、彼らの向学心を満たすためにあえて難しい表現になってしまった」。やれやれ、いま日本は西暦2009年だぜ?という気分に。

とは言え、上記のような単語を駆使するのは有用なこと。そもそもカントが言及していること自体が難解なのだから、分かりづらいのは仕方ない。試行錯誤しながら、その世界を紐解いてくれる本書はたいへんありがたい一冊なのでした。

カントの読み方 (ちくま新書)

カントの読み方 (ちくま新書)

2009/04/04図書館に返却

ここを始めて、1年くらい経ちました。

ココで書き始めて、ちょうど1年くらい経ちました。図書館で本を借りるようになって、手元に残らないのが寂しいからせめてメモしようと気分は日記のサブアカとしてスタートさせましたが、予想以上に自分の読んだ本を記録することが面白く、苦もなく続けることが出来ました。

きっと、自分の興味の遍歴を他人の目を気にせず記録し、後に丁寧に追えることが新鮮だったのかも。普段書いている日記では、どうしても見ている人の目を気にした内容を書いてしまって、正直ちょっと窮屈に感じることもあったのです。それが、こっちはまったく。そもそも見てくれているのが数人のようですし、なにより偏った内容ですし、なんとも気楽な場所になっていたのでした。いつも付かず離れずの距離で見てくれているあなた、どうもありがとう。おかげで続けてこれました。

それにしても、1年で読む本の内容がこんなにも変わるものかと、自分でもびっくりしています。以前は本屋に新刊として並んでいるものを片っ端から手にとって、琴線に触れたものを次々と消費していったのですが、図書館のおかげで知りたいことに向かって、体系立てて本を選ぶようになったと感じています。なにより助かっているのが、価格の高い書籍だってタダで読めるという仕組み。変な躊躇をすることなく読書できるのって、良いものなんですね。

今、興味があるジャンルは、宗教に哲学、法学、純文学あたりです。だんだんと、社会の仕組みとか、世の中の成り立ちとか、いかに生きるべきか!とか、ちょっとスピリチュアル入ってそうでヤバくね?と思われる界隈に偏ってきていますが、ご安心を。そういうふうにできてるのか、ふーんって言いたいだけですし、多分しばらくしたら、きっと飽きちゃう。すいません。

さて、1年経ったところでこの日記のルールも1つ変更。今までは、読みきった本だけを[読了]として記録してきましたが、これからは、何らかの理由で読みきれなかった、もしくは読むのをあきらめた本も記録していきます。[途読]とでもしておきますね。こっちのほうが、もしかしたら重要かもって気がしたので。

では、これからも粛々と続けていければと思っていますので、たまーに覗いてみてください。どうぞどうぞ、今後ともよろしくお願いします。面白い本に出会っていれば、きっと張り切ってメモしていると思いますので、お楽しみに。

脇本平也『宗教学入門』(講談社学術文庫/文庫)

「宗教」とは何なのかを体系化する。「事実を客観的に取り上げて主観的な価値判断を避け」「宗教を人間の生活現象の1局面として捉え」「特定の一宗教ではなく複数の多宗教を資料として取り扱う」ことを旨とした「宗教学」の入門書。

これは良い入門書。信仰の対象や宗教儀礼、そこに組み入ることになる信者の心情まで客観的にまとめてあり、「宗教」がどういったアウトラインをとって成立しているのかが理解しやすかった。どうしても特定の宗教に対する想いが強くなりがちなこの分野の本にしては、至って冷静な筆で書かれていた点もありがたい。

目次を引用しておきます。見てもらうと分かるとおり、ほんと大局のつかめる内容になっている。この本みたいなスタンスの文献が充実していれば、新しい分野にも触手が伸びるんだけどなあ。

1 宗教学の立場と分野
2 宗教の原初形態
3 科学・呪術・宗教
4 宗教の諸類型
5 宗教の構成要素
6 宗教的実在観
7 宗教的人間観
8 宗教的世界観
9 宗教儀礼
10 教団と社会
11 宗教体験と人格
12 宗教の機能

宗教学入門 (講談社学術文庫)

宗教学入門 (講談社学術文庫)

2009/04/05読了(61冊目)

勝間和代『無理なく続けられる 年収10倍アップ勉強法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン/単行本)

公認会計士二次試験を史上最年少の19歳で合格し、フルタイムで仕事をしながら3人の子どもを育て、中小企業診断士試験とオンライン情報処理技術者試験を合格。さらにTOEICは新卒時420点から3年間で900点へアップ、社会人大学院ではファイナンスMBAを取得し、その結果として16年間で年収を新卒時の10倍とした著者。成功の裏側にある勉強法を惜しみなく公開した1冊。

世の中、猫も杓子もカツマーである(言い過ぎ)。まあ、カツマーなど呼ばわって、ちょうどぼくと同世代の社会人がやたらと崇拝する勝間和代をいっちょ読んでみようと同僚に借りた。

彼女、おせっかいなくらいに丁寧なのな。「レッツノートが良い」と銘柄まで指定した上でノートパソコン購入を勧め、問合せ先を明記しフォトリーディング修得を薦め、英語のリスニング力アップのために「私はクリエイティブのものを使っています」と型番を記載した上でMP3プレイヤーの購入を勧め、挙句の果てにはFireFoxGmailを使うメリットまで改めて明言。言い方悪いですが、クドクドと説明してくれる。何をしたら良いのか迷子になっちゃった社会人にはありがたいのかも。

自分の上司たる年の著者が、我々若手に近い感覚で物事を選びとり、しかも成功体験に基づいて人生の指針を示してくれてるように見える。根性論や従来のやり方にしがみついて、具体的な指導をしてくれない上司を持った若手にとっては、理想の上司に見えるんだろうなー。

プチ自己啓発本として使い勝手が良さそうですね。とは言え、個人的には得るものがそんなになく売れる理由がいまいち納得行っていないため、他の勝間本も読んでみる予定。

無理なく続けられる 年収10倍アップ勉強法

無理なく続けられる 年収10倍アップ勉強法

2009/04/05読了(60冊目)

アリストテレース(著)、ホラーティウス(著)、松本仁助(訳)、岡道男(訳)『詩学』(岩波文庫/文庫)

特に悲劇を題材とした、お話の作り方のハウツー本。

これ2000年以上前に書かれたテキストですよね、ぼくらのストーリーの作り方って彼が浮き彫りにしたアウトラインから出てないじゃん!という驚きが一気に読み終えた感想。あえてハウツー本なんて言いたくなるくらい、すぐ使えてしかも普遍的、加えて本質的なことが書いてあってびっくりした。

ミーメーシス(模倣)に関する論が印象的だったなー。人間は再現されたものを好む、って話。「それ知ってる!そうそう!」なんて頷くとき、妙な気持ちよさがあるじゃないですか。アリストテレスはあの感覚を引き起こす模倣という行為を指して、ミーメーシスと呼んでいる。現実に起きたことを直接目にするのは嫌がる一方で、その現実を再現した絵や彫刻、演劇を見ることを人は喜ぶと彼は続けます。

これって完全に、インフォメーションデザインの話ですよね。複雑な現実を解体して、訴求力のある事実を大衆がキャッチアップしやすく、しかも自分が既に発見していたと思えるような解りやすさに編集する。後輩の書いた広告コピーに、「これで人が心動かされると思うワケ?」なんて抽象的なダメだしをしていた自らを反省。アリストテレスせんせえが2000年以上前にその答えを簡潔に、聡明な文章にて書かれていらっしゃいました。イチから勉強させて頂きます…。

訳も読みやすく、注釈も充実。古典や演劇の基本的な素養のないぼくにも理解しやすい一冊でした。なにかしらのストーリーを書く人は、読んでおいて損はないかも。

アリストテレース詩学/ホラーティウス詩論 (岩波文庫)

アリストテレース詩学/ホラーティウス詩論 (岩波文庫)

2009/03/19読了(59冊目)