読了

フロイト(著)、中山元(訳)『人はなぜ戦争をするのか エロスとタナトス』(光文社古典新訳文庫/文庫)

第一次世界大戦を目の当たりにし、人には避けがたい攻撃性があるのではないかと疑問をもったアインシュタインに宛てた書簡を表題に、かけがえのない存在を失った状態である喪から鬱病を読み解く「喪とメランコリー」、超自我・自我・エスという審級を設定し…

須賀敦子『ミラノ霧の風景』(白水社/新書)

イタリア文学者である著者が、現地での生活を振り返るエッセイ。狭い路地が入り組むイタリアの街並みや、現地の人々とのコミュニケーションを丁寧に描写する文章のしなやかなこと。「うれしい」とか「かなしい」とか、そんな言葉使わなくても気持ちって表現…

吉田篤弘『78』(小学館文庫/文庫)

78回転で回るSP盤。その存在を中心に、SPレコード専門店で行われる穏やかなやりとりや、そこに通う男性2人の少年時代、さらにはSP盤を吹き込んだ往年のバンドメンバーが手にする生活までが展開される。数々の短いお話が緩やかに関係しあう、オムニバス形式の…

中島梓『タナトスの子供たち―過剰適応の生態学』(ちくま文庫/文庫)

男性同士の性愛を描くジャンル「やおい」。女性不在の物語になんで少女たちが入れ込むのか。「やおう」とは何なのか、を切り口に現代の日本が抱える歪みを考察する。さすが著者自身が「やおい」の創始者。自身の感覚と各種同人誌の実例を交えて丁寧にやおい…

リチャード・ドーキンス(著)、垂水雄二(訳)『神は妄想である—宗教との決別』(早川書房/単行本)

神、という存在をなぜ妄信する人がいるのか。普通では眉をひそめる様な行動すら、信仰だと言えばまかり通ってしまう。そんな社会がなぜ成立するのか。アメリカ社会の絶対的な価値観である『宗教』に対し、ちょっとおかしくないスか?と科学的な見地から問い…

ドストエフスキー(著)、安岡治子(訳)『地下室の手記』(光文社古典新訳文庫/文庫)

自意識の過剰さゆえに地下室にひきこもることになった40男の手記という形をとった小説。2部構成になっており、前半が独白、後半はひきこもることになった原因だと男が考えているいくつかの出来事に関する記録。笑える。でも、その笑いがぜんぶ自分に返ってく…

速水健朗『ケータイ小説的。――“再ヤンキー化”時代の少女たち』(原書房/単行本)

ケータイ小説の表現手法やそれらを「リアル」だと言い支持する若者たちの文化的背景を、浜崎あゆみやヤンキー文化から紐解いていく文化批評。ぼくはケータイ小説は『Deep Love』に『恋空』、『あたし彼女』くらいしかちゃんと読んだことなかったんですが、共…

水村美苗『本格小説 上・下』(新潮文庫/文庫)

ニューヨークでお抱え運転手から億万長者に成り上がっていった男、東太郎を中心に、様々な人々の『人生』を描く小説らしい小説。抑えがたい、要するに人間くさいと言えるような感情や、生まれてきた環境など人として避けることのできない状況によって、少し…

スタンレー・ミルグラム(著)、山形浩生(訳)『服従の心理』(河出書房新社/単行本)

「権威に服従した状態であれば、普段では考えられない残酷な行動をしてしまうものである」。人間のそんな側面を浮き彫りにした「アイヒマン実験」のレポート。「責任は取りますので」と言われ嬉々として実験を進めていたのに、後に自らにとってストレスのな…

カート・ヴォネガット・ジュニア(著)、浅倉久志(訳)『タイタンの妖女』(ハヤカワ文庫/文庫)

ある予言に導かれるように、火星、水星、地球、そしてタイタンを放浪することになる大富豪。意思に反して運命に押し流されるその姿を通じて、人間の自由意志や全能の存在に対する疑問にとりくみ、やさしい1つの答えを出しているSF。って説明しきれてないなー…

中島梓『小説道場〈1〉』(新書館/単行本)

BLの源流であるJUNEに連載されていた、JUNE小説の書き方道場。「ボーイズラブ」といわれる分野にまったくアンテナが立たないわたくしですので、いっちょ勉強してみるかと読んでみました。正直怖いもの見たさみたいなとこがあったんですが、これが意外と楽し…

穂村弘『もしもし、運命の人ですか。』(ダ・ヴィンチブックス/単行本)

面白い。恋愛という身近な題材を扱っている分、視点の面白さが際立ってそれだけでも十分楽しめる。しかも妄想によってどんどん飛躍する自己完結ストーリーが、どれも笑える。なによりヘナチョコ男子っぷりが共感と涙を誘う。穂村弘って読ませる文章書くんで…

マルティン・ハイデッガー(著)/関口浩(訳)『芸術作品の根源』(平凡社ライブラリー/単行本)

いやー、読みにくかった。ハイデガー独特の用語が多くて頭がついていかないことが何度かあった。要するに、「芸術作品はこういった要請から生まれたのですよー」、「だから我々は芸術作品に心動かされるのですよー」ってことを語ってると把握したんだけど、…

岸本佐知子『気になる部分』(白水uブックス/新書)

これは面白い。世の中の『気になる部分』を軽妙な文体でつっつくエッセイ。だれのことも悪く言わないし、読後感がさわやかでホント楽しかったなー。ニコルソン・ベイカー『中二階』などを訳した方らしい。これを期に、そっちも読みたいな。気になる部分 (白…

大塚英志+東浩紀『リアルのゆくえ─おたく/オタクはどう生きるか』(講談社現代新書/新書)

大塚英志のほうがオリジナリティだったりコミュニケーションの力だったり、なんていうか、人間のプリミティブなものを信じているんだなーという印象。タコツボ化したり村化したり自家中毒がはじまったりしたときに、それでもいいじゃんって、全体が見えなく…

入間人間『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん―幸せの背景は不幸』(電撃文庫/文庫)

「嘘だけど」。みーくんの口ぐせを活かした仕掛けが巧い。地の文でも嘘を交えて読み手を罠に誘い込む周到さ。でもその嘘が結果的に救いになっているからそこ、読後はさわやかです。ヤンデレ(っていうか壊れてる)まーちゃんのピーキーな様子を可愛いと思え…

ポール・ホフマン(著)、平石律子(訳) 『放浪の天才数学者エルデシュ』(草思社/単行本)

天才は極端だ。この本で取り上げられている数学者、ポール・エルデシュを知って、ますますそう思った。オイラーに次ぐ約1500篇という大量の論文を書き上げた彼の生涯は、極端な数学漬けだったそうです。1日のうち19時間を問題を解くことに充て、世界中の数学…

エルヴェ・ティス/ピエール・ガニェール (著)、伊藤文(訳)『料理革命』(中央公論新社/単行本)

既存の料理手法に疑問を投げかけ、実際のレシピで応える。「料理の真理」を追求するために、文学、美学、哲学、それに絵画や音楽などの思想をヒントとして展開されるエルヴェ・ティスとピエール・ガニェールのレッスン。合間に挿入される小説風のテキストに…

古川日出男『アラビアの夜の種族』(角川文庫/文庫)

アラビアを舞台の底辺としたメタメタしたお話の世界にぐいぐいと引きずりこんでいく奔放な文体、各種欲望の比喩にビルディングロマンスのテンプレート、歴史モノに魔法、SFにRPG(ロトの紋章みたい)!要素多すぎ、読みどころだらけ。しかもそれらを破綻させ…

村上春樹『レキシントンの幽霊』(文春文庫/文庫)

短編集。ちょっと不思議なシチュエーションを通して世界のあり方を受け入れるようなお話が多かった。ひさびさに村上春樹読んだけど、しんとした空気をつくるのがうまいなー。あとやっぱりまねしたくなる文体。それはまるで、完璧なきゅうりみたいな文体なん…

リチャード P. ファインマン(著)、大貫昌子(訳)『ご冗談でしょう、ファインマンさん〈下〉』 (岩波現代文庫/文庫)

自分の知らないことに対して謙虚でいる、自分の納得がいくまで考える、自分で実際に手を動かして確かめてみる、当たり前のことを誠実に行うのってすごく楽しいことなんだって思い出させてくれるノーベル賞物理学者のエッセイ。ファインマンの人柄を身近なも…

アニリール・セルカン『宇宙エレベーター』(大和書房/単行本)

専門的な話になりそうになると、著者が疑問を投げかけてくれるので一緒に考えながら読めてよかった。宇宙エレベーターに限らない、科学的思考の楽しさと最新の宇宙開発の話。宇宙エレベーター作者: アニリール・セルカン出版社/メーカー: 大和書房発売日: 20…

リチャード P. ファインマン(著)、大貫昌子(訳)『ご冗談でしょう、ファインマンさん〈上〉』 (岩波現代文庫/文庫)

すごい面白い。刺激される。下もすぐ買って、今読んでる。高校生ぐらいの、若いころ読みたかったな。ご冗談でしょう、ファインマンさん〈上〉 (岩波現代文庫)作者: リチャード P.ファインマン,Richard P. Feynman,大貫昌子出版社/メーカー: 岩波書店発売日: …

吉田戦車『なめこ・イン・サマー』(太田出版/単行本)

仲畑貴志がコピーライターの仕事を評して「えび天があるでしょう、頭のほうから見せたらなんだかわからないウンコみたいな形だけど、尻尾がみえる確度から見せてあげればおいしそうだなって思ってもらえる。物事をそういうふうに捕らえるのが仕事なんですよ…

ジェイムズ・P・ホーガン (著)、池 央耿(訳)『星を継ぐもの』(創元SF文庫・文庫)

ハードSFの代名詞みたいに言われているので勝手にビビッてたんだけど、読んでみたら意外と親しみやすかった。学術的な表記が多かったのにストレスなかったのはきっと訳が秀逸なおかげ。徹底的に書き込まれたディティールが、きれいに回収されていくのが気持…

外山 滋比古『思考の整理学』 (ちくま文庫/文庫)

理屈でも心情でも納得できるライフハック本。思考の整理学 (ちくま文庫)作者: 外山滋比古出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 1986/04/24メディア: 文庫購入: 91人 クリック: 844回この商品を含むブログ (747件) を見る2008/06/12読了[20冊目]

伊藤文学【『薔薇族』編集長】(幻冬舎アウトロー文庫/文庫)

雑誌がインフラとして機能していた様にぐっときた。インターネットもない当時、自分の性にもんもんとしながら隠れていた全国のゲイが同好の士(というかおホモだち)を発見したときの嬉しさってどんなだったんだろうなー。あくまでゲイ雑誌をコンテンツとし…

岡田斗司夫『オタクはすでに死んでいる』(新潮新書 258/新書)

「オタク」という単語が持つ意味はすでに変わりましたよ、と改めてオタキングと呼ばれた男が語るのは意義がある気がする。やっぱり“権威”がコメントするのって、まだまだ意味があるもんな。それがオタキング自身に対する慰めの言葉だとしても。オタクはすで…

谷川流『学校を出よう!―Escape from The School』

キャラの詳細設定に関する説明のくだりが饒舌に続く。個人的には絶望系 閉じられた世界 (電撃文庫 1078)のほうが好みかなあ、たぶん絵がそんなに好きではないのかも。学校を出よう!―Escape from The School (電撃文庫)作者: 谷川流,蒼魚真青出版社/メーカー:…

香山リカ『ポケットは80年代がいっぱい』(バジリコ/単行本)

伝説の自販機雑誌『HEAVEN』編集部を中心とした、香山リカの極私的な80年代史。出てくる個人名が興味深い。山崎春美、松岡正剛、祖父江慎、町田康、ロリータ順子、野々村文宏、浅田彰、後藤繁雄、巻上公一、荒俣宏、細川周平、佐藤薫!こんなシーンに居たん…